―――「弁護士から言うなと言われているのでコメントできない。」
―――「その件についてはお答えしかねる。」
これは、ある大手企業が行った記者会見で繰り返された発言です。これによって、複数の記者が疑問と非難の声を上げ、会見が紛糾したという話を聞きました。発言をそのまま記事に引用したメディアもありました。
「弁護士から言うなと言われている」と説明されて、「わかりました。それならやむを得ないですね」と記者が引き下がるとでも思ったのでしょうか。「お答えしかねる」理由が判然としなければ、判然とするまで記者は繰り返し質問するはずです。何度もそうした説明の場に臨んでいるはずの経営幹部にしては、あまりにもお粗末な対応でした。
記者会見は社会的な関心が高いと判断した場合や企業姿勢を示す必要がある場合に開かれます。この会社の場合、通常の四半期決算に加え、財務体質の改善に向けた資金調達がこの日の発表のテーマでした。つまり、何か不祥事を起こしたために開いた謝罪会見で、「答えに窮して、つい口が滑った」わけでもなかったのです。
無論、謝罪会見だったらこうした許される発言というわけではありませんが、いわば通常の経営戦略の説明の場だけに余計、説明者の真意が測りかねます。広報をはじめとした事務方が想定問答を用意し、事前レクチャーを通じて、予想される鋭い質問への対処法も共有できていたはずですが、なぜこうした受け答えをしてしまったのでしょうか。
考えられるのは「広報に対する説明者の無理解」です。広報活動を経営戦略の一環として、重視する企業が増える一方で、「広報活動に対する理解や認知が社内で不足している」という話は今でも聞こえてきます。今回のケースも「本当ならこんな煩わしいことはしたくないが、広報が言うから仕方なくやっている」と常々感じていた説明者の不遜な態度が発言に出てしまったのではないでしょうか。
この会社はベテラン広報パーソンが複数おり、しっかりとした広報対応を行う会社です。それだけに会見後に必死にフォローしたことは想像に難くないですが、副社長の発言とは残念ながら重みが違いますし、発言を取り消すこともできません。
この話を聞いて、広報対応が優れている会社にも落とし穴があると感じました。その一つが、今回のように社内の広報に対する理解のない人に、どう理解してもらうかということです。説明者の一言によって会社の信用が毀損することのないよう、管理職や幹部研修の場で広報の重要性やマスコミ対応の勘所を定期的に説明したり、模擬記者会見を各拠点で行ったり、広報に対する社内の理解を高める方策はいくつもあります。「広報に対する無理解な人たち」のことを嘆く前にできることを考えたいものです。
橋本拓志
Twitter ID:@yhkHashimoto