想定問答を作るにあたっての心得

マスコミに対して発表を行う時に欠かせないものとして想定問答があります。このため、プレスリリースの作成に合わせて、準備され、対外説明にあたるメンバー間で共有されます。説明者によって回答内容に齟齬が生じないようにするための虎の巻とも言えるものです。

質問は広報担当者が作成するのが一般的です。マスコミから必ず聞かれる勘所は発表内容によって当然異なりますが、例えば新製品であれば「価格」や「販売目標」、機械やプラントの受注であればその「金額」、不祥事であればその「原因」や「責任の所在」が挙げられます。

前回のレポート(2014年5月30日付「広報に対する無理解」)で資金調達に関する記者会見に臨んだ経営幹部が記者からの質問に「弁護士から言うなと言われているのでコメントできない」と答え、会見が紛糾した話を書きました。そのうえで、説明者である経営幹部の広報に対する理解のなさがその要因ではないかと指摘しました。その後、その会社の別の関係者と話す機会があり、少し見方を変えました。

説明者は事務方が作った筋書に基づき、“振付”通りに振る舞うことが会見では少なくありません。重要であればあるほど、事前のシミュレーションも繰り返されていたはずで、想定問答にも「コメントできない」と書かれていた可能性が高いと言えます。仮にそうだとしたら、事情は違います。なぜなら、広報担当者が「弁護士から止められている」と答えることを容認していたことになるからです。あるいは、広報担当者が法務部門などの意向に押し切られてしまったのかもしれません。

記者からの質問に対する説明の仕方には3種類あると言われます。それは、「積極的に説明する」、「消極的に説明する」、そして「(現時点では)説明しない(できない)」です。「積極的に説明する」内容は本来リリースに書いておくのが原則ですが、あえて文字には残しておきたくない場合もあるので、その場合は質問されなくても説明の際に一言触れておく必要があります。「消極的に説明すること」は報道されることで与える影響に鑑みて、できれば答えたくないが、聞かれたらやむを得ず答えるような質問です。

「説明しない」場合、「相手との守秘義務契約がある」とか「原因を調査中」といった理由を示さずに「ノーコメント」と突っぱねるのは、避けなければなりません。説明しない理由を明らかにすることが求められますが、その理由は記者の「一定の理解」が得られるようなものでなければなりません。

その意味で、「弁護士から止められている」という回答を奇異に感じるのは記者であれば当然であり、理解を得られるはずもありません。仮に想定問答にそのように書かれていたとすれば、事前に再考の余地があったはずです。通常、想定問答の質問は広報担当者が起案し、回答は関連部署で作成されます。今回のようなケースでは法務部門も関係していたと思いますが、広報担当者は躊躇することなく疑問を呈すべきでした。

広報担当者にとって想定問答は、質問を作って終わりではありません。出来上がった回答が招くマスコミの反応まで見据える必要があります。想定問答の作成には、あらゆる角度からの質問を「予測力」も大事ですが、それ以上に社内の異なる立場の意見をまとめる「調整力」、「交渉力」、そして無用な誤解を避けるための「(回答の)表現力」が欠かせないことを今回の事例が示しています。

 

橋本拓志
広報コンサルタント Twitter ID:@yhkHashimoto
https://twitter.com/yhkHashimoto

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